「解除」がすすむ帰還困難区域に求められることは何か?

事故を起こした福島第1原発が立地する福島県大熊町の帰還困難区域部分の一部が、6月30日に解除された。ここは、住民が生活できるよう除染やインフラ整備が先行してすすめられている特定復興再生区域。JR大野駅前を歩いた。駅周辺には人が帰ってきている形跡はない。解除区域で今行われているのは、除染と建物の解体作業だ。すでに帰還が許されたにもかかわらず、未だ除染作業が行われていることに驚いた。しかし、実態を見ればうなずける。真新しいJR大野駅にあるモニタリングポストの値は、毎時0・23マイクロシーベルトを示していた。この値でも国が決めた除染基準値と同じ値である。そして、少し離れるだけで線量計の値はぐんとあがり、毎時0.77マイクロシーベルト(放射線管理区域の毎時0・6マイクロシーベルトを越える)から毎時1マイクロシーベルトにも達した。

今、大熊町では来年3月に開校する公立小中学校、子ども園(幼稚園、保育園)の工事が進んでいる。この周辺(大熊町大川原地区)の線量は、毎時0・1~2マイクロシーベルトと比較的低い。しかしこの広大な土地(延床面積は7,882平方メートル)にできる学校に今入学が予定されているのは、小中学校合わせ8人(2022年2月現在)。この学校ができれば廃炉作業中の福島第1原発から約8.4kmのところに小中学校、幼保子ども園が開校することになる。

福島第1原発まで約9.5kmのところにあり2018年に現地に開校した富岡小中学校。富岡町の小中学校は、今年3月まで富岡町の避難先であった三春町と富岡町現地の2か所で開校していた。今年3月には、三春校が閉所となり富岡町現地校一本で公立の教育活動が行われることとなった。

今年4月に富岡現地校に赴任した日野彰さんに話を聞いた。日野さんは、今年3月まで富岡三春校に勤務していた。また日野さんは、福島県教職員組合の放射線教育対策委員長だ。日野さんは、三春校で放射線教育を始めた。本来は、年2回放射線教育の授業を行うことを文科省はすすめていたのだが、日野さんの話では被災地福島県でもなかなか実施はできていないという。理由は、放射線に関する知識が不十分であり自信をもって放射線教育ができない、放射線教育は必要かもしれないが、優先順位は低いからだという。

日野さんは、三春校の中学生に放射線教育をすすめるにあたって、子どもたちが被災の「思い出」がほとんどないことに先ず着目したという。というのも生徒たちが被災したのは、1才~3才だからだ。日野さんが伝えたいと思ったのは、被災の事実、そして親御さんの苦労だ。その授業の後、ある生徒は、「初めて知った」と語ったそうだ。

日野さんは、最後に今後被災地での放射線教育に取り組みにあたっての心構えを語った。それは、被災の事実を伝えること、原発事故と住民の体験を語り継ぐことだ。これは、今後長く引き継がれていくべき視点であろう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA